峠越えを中心としたサイクルツーリングの記録、ちょっと懐かしい峠みちやカタログ、70年代〜80年代のヨーロッパのロードレース、プラモデル製作などについてご紹介しています。
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はじめに
このページはPORSCHE 906(以下、カレラ6)の製作記です。
カレラ6のキットは、日本のプラモデルメーカーから幾つも発売されていますが、いずれも1960年代〜1970年代に発売されたものであり、最近のキットはありません。
今回は第一次スロットレーシングカーブームの頃に発売された旧エルエスのキットを製作しました。
1.PORSCHE 906(カレラ6)について
カレラ6は、1966年に新設されたFIA規定のグループ4スポーツカーによる国際スポーツカー選手権の2リッター以下のクラスのタイトルを獲得を目標として開発されたポルシェ初の純レーシングカーです。
この年のスポーツカー世界選手権の開幕戦デイトナ24時間にデビューののち、最終戦のル・マン24時間まで順調に勝ち星をあげて、目標通りタイトルを獲得しています。
また、カレラ6は当時のポルシェ輸入代理店三和自動車により、日本にも3台が輸入されています。日本でのデビュー戦は1966年の第3回日本GPで、購入した滝進太郎によってプリンスR380と接戦を演じましたが、残念ながらリタイヤに終わっています。翌年1967年の第4回日本GPでは、酒井正と前年度まで在籍していたプリンスを飛び出した生沢徹とが906同士のトップ争いを演じ、30度バンクでクラッシュした酒井を退けて、上の画像の生沢のマシンが優勝しました。
2.使用キット
前述したように、今回は旧エルエスのキットを使用しました。日本プラモデル工業協同組合から2008年に刊行された「日本プラモデル50年史」の付録CD-ROM「日本模型新聞にみる昭和プラモデル全リスト」によれば、1966年6月にスロットレーシンガーキットとして発売されたのが最初です。
その後、ゼンマイカー、モータライズカー、リモコンカーなどに模様替えして発売されましたが、1992年の同社の廃業直前に金属製ホイールとバックミラーを同梱したディスプレイモデルが発売されたのが最後のようです。私が今回製作するキットはこのキットです。
エルエス廃業後はマイクロエース(有井製作所子会社)に金型が移譲されて、現在もマイクロエースから時々再生産されています。いずれにしても、55年以上前に設計されたキットなので、ボディスタイルはそれなりに再現されていますが、内外装にはかなり手を入れる必要があります。なお、付属デカールは、箱絵にあるように1967年日本グランプリで優勝した生沢徹のマシンのものなので、劣化さえしていなければ、このデカールが使用出来そうです。
3.参考資料
今回の主な参考資料は「日本の名レース100選-009 '67 第4回日本GP」です。このムックは株式会社三栄から刊行されており、100選と謳ってはいるものの、2017年のVol.74を最後に刊行が止まっています。私は興味のあるレースのもののみ30冊ほど購入してあり、今回の1967年日本グランプリ優勝車についてはこのムックを参考に製作することにします。
このレースで優勝した生沢徹は、日産とプリンスが合併したことでR380のシートを失うことになった結果、チームニッサンを飛び出して、スポンサー獲得活動を自ら行います。その結果、VANジャケット、ペプシコーラ、ブリヂストンタイヤなどと契約を結ぶことが出来て、三和自動車に残っていたカレラ6の一台を購入してこのレースに参加しました。そして同じカレラ6に乗る酒井正や日産R380勢との激しい戦いを制して勝利したのでした。
当時、私はまだ小学生でしたが、レースはテレビ中継されていて、私も固唾をのんで白黒テレビの画面を観ていました。レース途中で、酒井正のカレラ6が30度バンクを飛び出す大クラッシュを起こし、マシンが原形をとどめないほどバラバラになったのにも関わらず、酒井正が助かった事にものすごく驚いた記憶があります。
生沢徹が優勝してマシンを降りたときに、大会スポンサーのコカコーラ関係者が差し出したコカコーラには目もくれず、報道陣の前で、スポンサーであるペプシコーラを手にしたのは、プロフェッショナルレーシングドライバーのふるまいとして有名なエピソードの一つです。
4.製作過程
このキットは当初スロットレーシングカーとして発売されたため、ワンピースボディに窓枠と一体化しているウインドウとヘッドランプカバーを接着する仕様です。また、シャーシはモーターライズ時代のままのため、単3電池格納スペース、モーター取り付けスペース、スイッチ取り付け穴などがそのまま残っていますし、シート形状も実車とはまるで違います。
それでも、仮組みしてみると、基本的なボディ形状はそれなりにカレラ6を再現しています。
そこで、資料のムックの掲載画像やネット上の画像などを参考にしながら、あらかじめパーティングラインの除去、ホイールアーチの基本的整形、バリの削除当を行ってから、以下のような改修、加工を施しました。
4-1.ボディ
- ボディ後半部形状改修
リヤホイールアーチの後ろに切り込みを入れて、リヤパネルが地面と直角になるように加工するとともに、リヤウインドウの後ろの上面にプラ板を接着してパテ盛りの上で側面から見た形状を修正 - 前後ホイールアーチ間の燃料タンク部分加工
ボディから切り離してシャーシ側に接着した上で、左側のみ固定ベルト部分の位置を変更 - 左右エアインテーク部分の奥行き延長
ボディ裏側から奥行き部分をプラ板で追加し、右側延長部分にはフェールキャップを取り付けるための穴を開口 - フロントエアインテークの形状修正
インテークを開口するとともにインテーク全体の形状をパテ盛り・ペーパー掛けで修正 - ヘッドランプ部分の修正
サードパーティのヘッドレンズ取り付けのための開口 - フロントトランクパネルの切り離しと修正
パネルを切り離してから、オイルクーラーへのエアインテークとアウトレット部分を開口 - ダッシュボード加工
2個のメーターが装着される部分を開口の上、メーターレンズを取り付けて、各種スイッチ類・警告ランプ部分をプラ丸棒で再現 - テールランプの取り付け位置修正
ボディにモールドされているテールランプを一旦切り取ってから位置を変更して再接着 - ウインドウパーツの加工
一体成型されているウインドウパーツを3分割し、本来はボディの一部である中間部分はボディ側に接着して成型、フロントウィンドウとドアウィンドウの凸モールドはペーパーで削り取り
4-2.シャーシ・内装
- 燃料タンク・リヤバルクヘッド追加
コックピット左右の燃料タンク部分をプラ板で作成し、リヤバルクヘッドもプレス形状を再現した上で追加 - コックピット改修
ハセガワのセリカ1600GTレース仕様キットのシートを流用して、実車と似た形状のバケットシートを再現し、ジャンクパーツを流用・加工したシフトレバーも追加 - ホイールハウス追加
ホイールアーチ部分から内側が丸見えのため、ボディ側にホイールハウス、シャーシ側に隔壁をプラ板で製作して接着
- ヘッドライト・ウインカー・フォグランプ置き換え
キットはいずれも白モールドのパーツで実感的でないため、ヘッドランブはディティールアップパーツとして市販されているアルミ挽き物の反射鏡とレンズに置き換えて、ウインカーとフォグランプは似た形状のものをジャンクパーツを流用して置き換え - エアファンネル置き換え
ジャンクパーツから見つけた、より実感的な形状のエアファンネルに置き換え
上記の改修、加工を施した状態は以下のようになりました。かなり手間は掛かりましたが、未加工状態と比較すると、実車の再現性はそれなりに上がったと思います。
5.塗装とデカール貼り
改修、加工を終えてから、ボディとシャーシはグレーサフを吹いて、改修部分の最終チェックと細かな修正をした後、ボディ表面はピュアホワイト、フロントトランクパネルとリヤグリルはクロームイエロー、リヤウインドウは薄めたクリヤーイエロー、シャーシはシルバーメタルで塗装しました。なお、塗料はいずれもタミヤのスプレーです。
コックピット内部、シート、ステアリング等も、基本的にタミヤのスプレー、ラッカー、エナメルなどを使い分けて塗装しています。
デカールはさすがに劣化が心配だったのですが、不要な会社名や車種名の部分を水に浸してみたところ、デカールはまだ充分使える状態だったので、念のため軟化剤やデカールのりも駆使しながら貼ることが出来ました。
6.完成
塗装終了後に前後ウィンドウ、ヘッドランプカバー、ミラー、やっつけ仕事で自作したワイパーなどの小物を取り付けて、とりあえず完成です。
ですが、窓枠の墨入れなどはかなりいい加減ですし、ウィンドウパーツにはひび割れもあります。また、形状はまあまあ似ているものの、シート表面が未加工のシート、シートベルトやコックピット内のミラーのつけ忘れ等々、出来上がってみると、もう少し丁寧な工作を施す必要があったなあと。
ということで、幸い、このキットはもう1個保管しているので、今回の作例にはこれ以上手を付けず、いずれはまた新たに作り直ししたいと思います。